
なぜ無機顔料は肌から退色するのか?(パート2)
マクロファージはどうなの?
マクロファージは酸化鉄顔料には反応しません。なぜなら、酸化鉄は生体由来物質だからです。
この顔料を処理するのはトランスフェリンであり、マクロファージではありません。
マクロファージが関与するのは、有機顔料に対してです。
マクロファージの役割
マクロファージは、体内にとって不要な異物をなんでも“食べて”しまう存在です。
特に炎症が起きると、その数は急増します。
私たちがアートメイク用色素の製造を始めたとき、ふと疑問に思いました:
「体に入れたタトゥーって、時間が経っても自然に消えるわけじゃないよね?」
確かに、数十年かけて少しずつ色が変化したり、衣類との摩擦がある部分(背中や肩など)では若干薄くなったりすることはあります。
でも、マクロファージはタトゥーの色素に触れないということでしょうか?
でも眉は退色する?
実際、退色します。
血液とリンパの流れのスピード
鍵となるのは、顔に注入された色素の周囲での血液やリンパの流れの速さです。
例えば、顔(眉、目元、唇など)には、背中や肩よりもはるかに多くの毛細血管や血管があります。
つまり:
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色素が注入された部位で体液が常に入れ替わる
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そのため、有機顔料は少しずつ溶けて、体内から排出される
たとえ色素自体が固体で水に溶けない性質であっても、時間とともに少しずつ分解されます。
マクロファージが処理できるのは「溶けた色素」のみ
色素が十分に分解され、溶けた状態になったときに限り、マクロファージが処理可能になります。
溶けていない色素はマクロファージに“食べられる”ことはなく、物理的に不可能なのです。
有機顔料が分解する理由は:
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分解することで溶け出す
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溶け出すことで分解が進む
という、ある種のパラドックス的な現象が起きているのです。
これはすべて、色素の化学的・結晶構造に依存します。
顔料メーカーの現実
そして、色素そのものを製造しているメーカー(多くは中国)は、「色素の安定性」を最も重視しています。そのため、溶けやすい顔料をわざわざ作ることはありません。
ここで改めて思い出してください:
「アートメイクやタトゥー専用の色素」なんて、どこにも存在しません。
私たちは、使えそうな顔料を選んで、インクとして加工しているだけなのです。